2018年4月18日水曜日

補強音痴

音痴。
それは魅惑の響き。
たどたどしい宴への誘い。

世の中には、たくさんの種類の「音痴」があります。
例えば、体を動かすのが苦手な運動音痴。
料理の風味を感じるのが苦手な味音痴。
すぐに迷子になる方向音痴なんてのもいます。

そんな音痴図鑑に、私は新たな1ページを加えたいと思います。

それが!
今回のテーマである補強音痴です。

(地鳴りのような歓声が上がる)

◆補強音痴とは?


いきなり造語を提示してしまい、すみません。
まずは、補強音痴とは何かということから説明しましょう。

補強音痴とは、「物体の補強が不得手な人」のことを指します。
おいおいおい。
表現が固いぜ。
難しい話なんじゃないの?
大丈夫です、そんなことはありません。

皆さんが街で目にする張り紙や看板は、常に風雨にさらされています。
徐々にダメージを受け、ボロボロになります。
ときには剥がれたりします。
そこで、そういった張り紙や看板のような物体を長持ちさせるために、テープや紐で補強をするわけなんですね。
賢いから。
人間は。

ちょっと具体例を出してみましょう。



写真は、張り紙が風で飛ばされないようにガムテープで囲うことで、強度を補っています。
これだけかっちりと囲っていれば、十分でしょう。
安心。
仕事を頼んだ大家さんも、枕を高くして眠れます。

これは、補強の技術がちゃんとしている人です。
非常にいい。
体感ですと、全張り紙の上位20%くらいに入る補強です。

補強音痴の人には、こんな芸当できません。
なぜなら、補強が不得手だから。
自分の感性の赴くままに補強をし、失敗していきます。
ひどいもんです。

じゃあ、補強音痴は一体どんな補強をしているのか。
私なりの分類が4パターンありますので、それに従って紹介していきます。

◆不足



補強が失敗するポピュラーな原因に、「道具をけちることで強度が弱くなる」が挙げられます。
これが、「不足」です。

先ほどのちゃんとした補強と比べてみて下さいよ。
この弱々しさ。
安定感のなさ。
既にちょっと傾いてるし。
ウエハースでやる金魚すくいと同じくらい心細いです。

料理の写真が上手に撮れているだけに、補強のひどさがより際立っています。


個人でやっている中華料理屋さんで見た「不足」です。
店主の方が補強音痴なのでしょう。

チェーン店では、こういうのはあまり見ません。
アルバイト店員や本社の社員がこうした張り紙を諌めてくれるのでしょう。
対して個人店舗の場合、周りのブレーキが効かないため、下手な補強をそのままの状態で見ることができます。
ありがたいですね。

「不足」は見栄えが死んでいるので、非常に見つけやすいです。
バードウォッチングで言う、カモメ。
昆虫採集で言う、セミ。



こちらも個人経営の店舗です。
たまらんですね。

なぜこんなことが起きるのか。
私は、「紙の長さに合わせてガムテープを伸ばして切るのが面倒くさい」という背景があると思っています。
小さく切ってところどころ貼っておけばいいだろう。
そんな横着な心を感じます。

確かに、ちょうどいい長さにガムテープを伸ばすのは、大変です。
テープは長くなるほど扱いが難しくなり、不器用な人なら、貼るときに変なところに貼りついたりするでしょう。
途中で空気が入ってボコボコになったりもするでしょう。
端っこが丸まってくっついたりもするでしょう。

そういったテープとの格闘に破れた結果が、「不足」の張り紙なのです。
基本的に道具の扱いに不慣れなのが、補強音痴の一つの特徴です。



因みに、これは補強音痴とまでは思わないです。
ちょうど全補強の上位50%くらいですね。
まあまあ・オブ・まあまあ。
剥がれてはいるものの、長くガムテープをちぎる技術を感じます。
紙をビニールで包んでいるのも高得点ですよ。

◆過剰



「不足」とは逆に「いっぱい補強するも、強度が増えない」というパターンがあります。
ちゃんと補強できているのか不安に駆られ、「ここも貼ったほうがいいかな。ここもかな」と次々にガムテープを貼っていきます。
しかし、多くの素材を費やした割に、強さは大して変わっていない。
これが「過剰」の特徴です。

写真は自販機のゴミ箱で、ところどころ割れたりガタが来ているようです。
弱くなった部分を補強しようとしたのでしょう。
ですが、貼ったガムテープが見事に用を成していません。
下のほうの三又になっているところとか何なんだ。



もちろん見栄えも死にます。




原因は、「不足」よりも根深いです。
この人たちは、「どんなところに、どれくらいの補強したらいいのか分からない」んです。
「ここにガムテープを貼れば十分な強度になりそう」という感覚がない。
ちょうど音痴の人が、どういうリズム、どういう音程で歌えばいいか見当もつかないように。

まさに「補強音痴」という言葉に相応しいパフォーマンスを見せてくれます。



結果、不必要なテープが増えて過剰になります。
ピンポイントで補強できていれば、もっとスマートなのに。



この画像の景色に出会ったとき、「ぐるぐる巻きは音痴の証」という格言が自分の口からポロッと出ました。
補強音痴は、ぐるぐる巻きを多用します。
こんなちょっとじゃすぐ取れちゃうかなという囁きが、心の中で無限に反響するから。
ポール状のものと対峙した場合は、まず間違いなくぐるぐる巻くと思っていいでしょう。



ポールに沿う意味はなく、普通に縦横に貼るのが一番いい。



パイロンに張り紙を付ける際の過剰。
ガムテープの皺の感じから、不器用な人がやったのだと思われます。



買ってきた紐が長すぎたんですかね。
でも、ホームセンターに返品しに戻るのも面倒だし、勢いでやっちゃえとなったのでしょうか。
動機はともかく、アウトプットは完全に補強音痴です。
実際は上下に2本分くらいあればいい。



「過剰」であり「不足」でもあるという珍しい例。
補強のミュータント。
街角のスタグフレーション。
柵のような立体感覚を求められる場所は壁よりも難易度が上がるので、補強音痴が挑むと悲惨なことになりがちです。
難しい曲に音痴が挑むのと同じ構造。

◆素材ミス



3つ目は、「素材ミス」という分類です。
画像を見ると、よく分かるかと思います。

子供が躓いたりするのが気になったんでしょうね。
これは危ない。
何とかしないと、って。
心の優しい方なんでしょう。

でもね、アスファルトの隙間をガムテープで埋めるのは厳しいです。
ガムテープは便利な道具ですが、流石にこれは荷が重い。
実際、下のほうは負荷に耐え切れず千切れています。

これは多分、自治体に連絡するのが適切な案件です。
木の板か金属の板で覆うくらいはしてくれるでしょう。
個人で立ち向かおうとしてはいけない。



飲食店での一枚です。
レンガの一部が崩れそうになったんでしょう。
それをガムテープで食い止めようとしています。

ガムテープへの信頼が厚い。
厚すぎる。
しかも布テープですらなく、紙のテープ。
個人の店ならではの判断が光ります。

あっ、本来は業者を呼ぶのが確実です。
崩れてお客さんの足にでも落ちたら問題なのでね。



憶測ですが、看板を飛ばしたくないんだと思います。
強風で倒れたりしたら大変ですもんね。
そこまではいい。
よく気が付いた。
ただ、紐じゃなくて、重しで補強するのがいいんじゃないですかね。

応急処置を施したものの、何らかの事情で本格的な補強をしないでいるということでしょうか。
なんにせよ、目を疑うような補強を見られるのが、「素材ミス」の特徴です。



ここまで重い柱では、テープはほぼ無意味でしょう。



パイプの継ぎ目が剥きだしになっていて危ないから、補強してあります。
薄いビニールをガムテープで巻いて。
仕事の粗さよ。
テープがほぼ全部剥がれているのが、逆にすごい。

素人から見ても、ビニールよりも厚い素材を使ったほうがいいのではと思えます。
スポンジとかタオル状のものとか。
それだとカラスなどについばまれるんですかね。



バイクの座席ですね。
年季を感じます。
同じ黒だし、ガムテープで破れたところを補強すればいいという発想でしょう。
ここまでビリビリなら、ちゃんと業者に頼んで直してくれ。



針金とガムテープで柵を!
ビスもところどころ抜けてしまっていますし、手詰まり感が漂ってきます。



「素材ミス」と「過剰」の混合型です。
何かがぶつかって金属が凹んだか、穴が開いたかしたんでしょう。
紙で補強しようとする部分が素材ミスで、「さすがにそれじゃ弱いか」とガムテープで取り繕おうとする際に過剰が発生しました。

◆意図が分からない



最後は、「意図が分からない」です。
何?
何でそんなとこ補強するの?
そもそもこれは何なの?
様々な疑問が湧いてきたときに当てはめる分類です。

画像はおそらく車止めのためのポールです。
それは分かるんですが、2本を繋げるのがよく分からない。
壁に向かって車は来ませんし。
がっちり紐を固定して、それが何の役に立つというのか。

補強ってなんだろう。
何のために補強ってしてんだっけ。
作業の根底から崩れていくのが、「意図が分からない」です。
どうです?
おそろしいでしょう。



植物の補強。
茎の部分を括りつけるなら理解できます。
トマトみたいに茎の部分が弱い植物もありますもんね。

葉っぱ?
葉っぱで結んでますよね。
んんんんん?

見れば見るほど謎が深まります。



金属がボロボロになって落ちた看板を、ビニール紐で補強して無理やり繋ぎとめています。
そうまでしてパネルを生かしておく必要はあるのか。
「駐車お断り」という後継者も立派に育ってるのに。
パネルがなくても車を止める目的は果たせるのに。

役割を終えたパネルは、死にたがっているようにも映ります。

◆まとめ


以上が補強音痴の方々の補強例です。
基礎的なものから突飛なものまで、様々なベクトルで下手な補強を見てきました。

一つ分かって欲しいのは、私は決して補強音痴を糾弾している訳ではないということです。
補強音痴を直して欲しいなんて、微塵も思わない。
きっちりとした補強ばかりだったら、世界はつまらないです。
たどたどしいものや、不恰好なものがあることで、バラつきが生まれます。
そしてバラつきは、均質化に疲れた私達の心に、何かを思い出させてくれるはずです。



あ、すみません。
「均質化に疲れた私達の心に、何かを思い出させてくれる」は言い過ぎました。
そんな高尚なものじゃないです。
ちょっと「いいっすねえ」と思うくらいです。

最後に、補強音痴の人がこしらえた汚い補強を見て、「んもう!」と言って終わろうと思います。



んもう!

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